NPO法人ともに生きる街ふくおかの会: 本の紹介(2019.10)

2019年10月1日火曜日

本の紹介(2019.10)

 9月はほぼブログのアップができず、本の紹介自体も4月以来…という状態ですが、先日のともいき例会でもご紹介した本です。
 外国につながる子どもに関わる方々は、是非手に取ってみてください。
 あっという間に世界に引き込まれて、一気に読める本です。

温又柔(2019)『「国語」から旅立って』新曜社

 話題になっていながら、なかなか読めておらず、夏休みにようやく読んだ本です。
 外国につながる子どもたちに関わっている方が手に取れば、「そうそう!」と納得したり、今関わっている子どもの思いに考えを巡らせたり、とても素敵な本です。
 また、外国につながる子ども自身が読むことができれば、励まされるのではないかな、とも思います。
 台湾出身の著者が記す、家庭での台湾語、家庭の外の日本語、自分が信じていた母語が「中国語」ではなく、「中国語」が別にあると知ったときのこと、自分が取り戻そうとしている「ことば」はいったい何だったのだろうと考えたこと、などなど。
 そして、彼女の母が、ママ友に「中国語も教えればいいのに」と言われたときに、彼女に語った「どちらも、は望まない。むしろ、どちらも中途半端になったらかわいそう。それなら、どちらか一方だけでいい」という思いも響きます。
 知人の家族で無理に両言語を教えようとした結果、学校では日本語がヘンといわれ、親からすると中国語もたどたどしく聞こえ、どんどんと無口になる知人の娘。そうした思いや苦労を娘にさせたくなかった親の気持ちが痛いほど伝わります。
 学校生活で仲間たちが「日本人とか台湾人である以前にオンちゃんはオンちゃんなんだもん」と語ることが、彼女を支えてきたこと。
 繰り返し思い出される小学1年生のときの先生の指導の仕方も、とても印象的です。



ナディ著、山口元一解説(2019)『ふるさとって呼んでもいいですか―6歳で「移民」になった私の物語』大月書店

 こちらの本も話題になり、新聞の書評欄でも取り上げられたりした本です。
 イランから一家5人で来日し、不法滞在状態を続けながら、在留特別許可を得るまで、そしてそれからなど、ナディさんが自分と自分の家族の物語をわかりやすく書いています。
 日本語が分からず、「ニコッ」「ペコリ」で乗り切った最初の頃、まわりの大人たちの見守り、日本人との関わり、学校で学ぶようになってから、ムスリムとしての学校生活、11年ぶりの祖国への帰国と違和感、アイデンティティの悩みなど、さまざまに描かれています。
 そこに描かれる日本人もあたたかな人々です。
 「ベイビー、ベイビー」と言いながら子どもだけで留守番をするのを気にする日本人の隣人、自分の子どもの分だけでなく、ナディさんたちの分もおやつを用意してくれる公園での仲良くなった子の母親など、たくさんの大人の姿も描かれています。
 あるときナディさんが日本人の男の子たちから嫌がらせを受け、日本語の分からない彼女の母親はそれでも男の子の家に乗り込みます。対応したその子の父親は、母親のペルシャ語とそれを通訳するナディさんのことばに耳を傾け、自分の子どもをしかります。そして、一緒に嫌がらせをしていた他の子どもたちの家に、ナディさんと母親とともに回っていきます。
 外国人とか日本人とか関係なく、地域で一緒に子どもを育てる、そんな様子がうかがえます。
 父親のことを取り上げたコラムでは、父親が町内会の会長をしていたエピソードがありました。日本語を話せても、読み書きができない父親が他の人の助けを借りながら役割を果たしていく姿、自分は豚肉以外であってもお祈りを捧げた肉しか口にしないのに、祭りで焼き鳥を焼き、売り切ったことなど、地域のなかに溶け込んで生活している様子が描かれています。
 日本を「自分が帰る場所」と思っているナディさんは、これからそうした外国人がもっと増えるだろうと記しています。
 私たちのまわりにも、福岡を自分の帰る場所として大切にしてくれている人々がたくさんいます。そうした人々に何ができるのか、改めて考えを巡らせました。



 少し過ごしやすくなった秋の夜のお供にしてはいかがでしょうか♪