NPO法人ともに生きる街ふくおかの会: 3月 2020

2020年3月30日月曜日

本の紹介(2020.03その3)

 今月は本の紹介が多めですが、忘れてしまう前に…ご紹介します。

鳥飼玖美子・苅谷夏子・苅谷剛彦(2019)『ことばの教育を問いなおす―国語・英語の現在と未来―』ちくま新書
 特に外国につながる子どもの日本語教育に関係して、というわけではありませんが、改めて「ことばの力」や「ことばの教育」について考えさせられた本です。
 鳥飼玖美子氏は英語教育について、特に小学校英語教育の是非については、母語の力が十分でないうちからの小学校英語教育については反対の立場から発信されてきた方です。苅谷夏子氏は大村はま氏の国語教育実践についてまとめていらっしゃる方で、苅谷剛彦氏は教育学の世界では著名な方です。
 この三者が、それぞれの立場からことばの教育について語っています。
 表面的な流ちょうさではなく、話す内容やその論理性が本来は必要とされるものであり、そうしたことばの力をどう鍛えるのか、自分たちが鍛えられたかも述べられます。そうした三者の文章からは、抽象的な思考が可能となることばの力を身につけることの重要性を強く感じます。
 一件、難しそうに思われるかもしれませんが、語りかけるように書かれているので、読みやすいです。
 「日本語教育」の本ではありませんが、「ことばの教育」に関わる方にはオススメの本です。



清水由美(文)・ヨシタケシンスケ(絵)(2018)『日本語びいき』中公文庫
 著者による『日本人の日本語知らず。』を増補改題した文庫版です。
 日本語教師が、教えているときに遭遇する日本語教育文法の話や学習者の使用、日本語教師の立場から思うことなどを綴ったエッセイです。
 本格的に日本語教師としてお仕事をされている方でなくとも、日本語教室で教えたことのある方は、「あるある!」と思いながらあっという間に読める本です。
 実は、この本を読みながら、日本語教育の文法的な疑問を持ったので、そのうちどなたかに解説していただこう、と思っています。
 (新型コロナウイルスが終息して、日本語教室が再開したら質問します!)



 ことばについての本を読んでいたら、10年以上前に読んだエッセイのことを思い出しました。

多和田葉子(2003)『エクソフォニー―母語の外へ出る旅―』岩波書店
(多和田葉子(2012)『エクソフォニー―母語の外へ出る旅―』岩波現代文庫
 2012年に岩波現代文庫として刊行されていますが、岩波現代文庫ではリービ英雄さんが解説をしているようです。
 (私の手元にあるのは、文庫版ではないので…)
 日本語とドイツ語で創作活動を行う著者が、ことばをめぐって、日本語、ドイツ語、さらに他の言語に触れて感じることを軽やかに綴っています。
 日本語ではないで生活した経験がある方、日本語学習でことばの間を漂いながら表現している人と接している方など、興味深く読めると思います。
 第二部は、ドイツ語を学習している人にはとても面白く読めると思います。
 ドイツ語学習者からして「そうなんだ~」や「あるある!」と思うところがたくさんあります。もちろんドイツ語学習者でなくとも、外国語学習の経験がある方にとっては興味深いと思います。

 ことばは、著者にとって一つの大きなテーマだと思いますが、次の物語も興味深く読めました。

多和田葉子(2018)『地球にちりばめられて』講談社
 ある日、自分の国が消滅してしまったら…。コミュニケートするための新しいことばを作り出し、自分と同じ母語を話す人を探す旅に出る主人公。
 新しく作り出したことば、自分の母語、言語によってつながっていく人々との出会い。
 とても素敵な作品です。



 新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、不要不急な外出自粛が求められていますが、体調管理をしつつ、部屋のなかでの過ごし方の一つとして読書を楽しめたらいいですね。

2020年3月28日土曜日

外国人の子どもの就学状況等調査について

 引き続き、外国人児童生徒等の関係です。
 秋頃に外国人の子どもの就学状況調査の速報値が出されましたが、その確定値と調査結果が昨日(3月27日)に公表されています。
 就学状況に関わって、就学状況の把握や就学促進の取り組み、各種規定、指導体制の整備状況等についても報告がなされています。

  • 外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値)(概要) (PDF)
  • 外国人の子供の就学状況等調査結果(確定値) (PDF)
  • 外国人の子供の就学状況の把握・就学促進に関する取組事例1 (PDF)
  • 外国人の子供の就学状況の把握・就学促進に関する取組事例2 (PDF)
  • 外国人児童生徒等教育の充実について(報告)

     先ほどの在留資格に引き続いてのアップです。
     ともいきのブログでも時折紹介していましたが、外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議の報告書は、昨日3月27日付けで文科省より公表されました。
     今後の方向性を示すものとして、しっかり読み込みたいところです。

    文部科学省HP
    外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議報告書(概要)(PDF)
    外国人児童生徒等の教育の充実について(報告)(PDF)

    「家族滞在」の在留資格で日本の高校で学び、卒業後就職を希望する場合について

     福岡は昨日の雨が今日は弱まったものの、咲き始めていた桜もだいぶ散ったことと思います。
     さて、以前にも話題になりましたが、「家族滞在」の在留資格で日本の高校卒業後に就職する場合の在留資格の切り替えについて、法務省がHP上で説明を公表しています。
     PDFファイルにまとめられている説明はずいぶんと分かりやすいと思いました。
     「家族滞在」で日本の高校に通っており、卒業後の進路として就職も視野に入れている生徒をご存じでしたら、是非一度目を通してみてください。

    法務省HP
    「家族滞在」の在留資格をもって在留し、本邦で高等学校卒業後に本邦での就労を希望する方へ

    高等学校卒業後に日本での就労を考えている外国籍を有する高校生の方へ(PDF)

    2020年3月16日月曜日

    新型コロナウイルスに関する多言語情報について

     2月にも新型コロナウイルスに関する多言語情報についてアップしましたが、子どもメールというメーリングリストで情報の集約・整理がなされているサイトのお知らせがありました。
     NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会が整理しているものです。
     以下をご覧ください。

    NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会
    【第4報】各地域の多言語情報発信サイト

     ともいき理事の古城さんからは入管からの情報が寄せられました。
     この間に在留資格関係の手続きをしなくてはならない方がお近くにいたら、一緒に確認していただければと思います。
     ※以下の案内はやさしい日本語で作成されたものとのことですが、行政の文章はもともとが日本人にとっても難解な言い回しであったりすることもあるため、一読しただけでは分からない可能性があります。

    出入国在留管理庁ホームページ
    新型コロナウイルスについてQ&A
    入管からのお知らせ:入管への書類の提出について
    入管からのお知らせ:日本に入国予定の人へ

    2020年3月10日火曜日

    本の紹介(2020.03その2)

     続いて本の紹介です。
     今度は新書になります。

    国籍問題研究会編(2019)『二重国籍と日本』ちくま新書
     外国につながる人々と関わるなかで、国籍に関わる話が出てくることがあり、なんとなく分かったような気になっていたりもしますが、やはり複雑です。
     大坂なおみ選手をはじめ、ダブルのスポーツ選手がどちらの国の代表として試合に出るのか、二重国籍の場合にどちらを選択するのか、ということが話題になったりしますが、そうしたことを入り口にしながら二重国籍について分かりやすく述べてあります。
     蓮舫議員の国籍問題についても大きく紙面を割いて解説してあり、二重国籍問題の複雑さがよく分かりました。さらには世界の潮流などについても触れられており、勉強になる一冊です。



    永吉希久子(2020)『移民と日本社会―データで読み解く実態と将来像―』中央新書
     移民を取り巻くさまざまな事柄について、例えば、「外国人が増えたら犯罪が増加する」や「外国人が増えたら雇用が奪われる」「社会保障費の負担が増える」など、漠然としたイメージがあります。こうしたことについて、統計データを用いた研究を基に本当にそうなのか?と問い直している本です。
     統計と聞くと私はどちらかというと苦手なのですが、わかりやすく解説してあって読みやすいです。さらに、国内外の研究を踏まえているので、なかには地域づくりに関わる研究データが紹介されていたりもして、参考になります。
     第3章「移民受け入れの社会的影響」が地域に関わるものになりますが、問題解決が個人に依存していると脆弱であり、それを回避するには移民が自治会活動に関わる仕組みづくりが必要と先行研究から指摘されています。読みながら、これまた香椎浜のことを思い出したりしました。
     個人的には、第4章「あるべき統合像の模索」で示される多文化主義政策の指標などは興味深かったです。カナダとドイツの研究者が提示する指標がそれぞれ挙げられていますが、普段ヨーロッパを見ている立場からすると社会のあり方の違いが反映された指標で、いろいろと考えを巡らせました。


     この新書に近い形で(著者は社会学がベースなので「違います」と言われそうですが…)移民にアプローチしている新書があります。

    友原章典(2020)『移民の経済学―雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか―』中公新書
     経済学をベースにしているものですが、扱われる先行研究は永吉さんのものと共通したものが見られます。
     経済学と聞くと難しそうだなと思う方もいらっしゃると思いますが(私自身です…)、第6章「治安が悪化し、社会不安を招くのか」では、地域の結びつきと多文化共生や移民に対する日本人の態度などを扱っており、興味深いです。
     永吉さんの著書と合わせて読むといいかと思います。


     外国につながる子どもの教育や異文化理解に直結するものではありませんが、新書だと手に取りやすいので、是非手にとっていただければと思います。

    2020年3月9日月曜日

    本の紹介(2020.03その1)

     新型コロナウィルスの感染拡大で、いろいろなことが生じています。
     学校の突然の休校、卒業式の中止、入社式の中止など、私たちの生活にも影響が出ています。
     外出を控えている方も多いのではないでしょうか。
     気持ちはなかなか落ち着きませんが、家にいる時間に普段はゆっくり読めない本を手にとってもいいかもしれません。

     さて、先月紹介しそびれていた本をご紹介します。

    星野ルネ(2019)『まんが アフリカ少年が日本で育った結果 ファミリー編』毎日新聞出版
     2018年11月のブログでも紹介したマンガの続編です。
     カメルーンからやってきたお母さんがどのように義理のご両親とコミュニケーションしたり、地域になじんでいったか、といったことやご近所づきあい、「あるある話」など盛りだくさんです。
     あまり紹介してしまうともったいない(!)ので、是非手にとってみてください。

     

    大島隆(2019)『芝園団地に住んでいます―住民の半分が外国人になったとき何が起きるか―』明石書店
     外国人住民が多い団地として知られる芝園団地。取材で出かけていた新聞記者が、団地に実際に住んでみることにしました。「取材する側」から「取材される側」に身を置くことで見えてくること。
     第5章「共生への模索」では、「顔が見える関係」を作るため「一緒に何かをする」、「共存か、共生か」、「文化の折り合いをつける」などは、読みながらも他の団地の話とは思えなくなっていきます。
     ともいきで関わっている香椎浜地域を彷彿させます。
     著者である大島さんも「同じ場所で共に生きていく住民として、意識的にお互いの関係を構築していく取り組み」が重要であることを指摘しています。
     伝えるプロセスを意識して、「日本人対外国人」の対立構造ではなく、「顔の見える関係づくり」へ。そして同じ地域に暮らす住民として共通の「帰属意識」を育てる、など、ともいきが活動をするなかで大切にしていることと通ずるものが、多々描かれています。
     どんな多文化共生も、楽しいことばかりではない。
     そこで暮らす人々の楽しみもあれば悩みもあり、努力もあれば葛藤もある。
     そんなことを考える1冊です。



     実は昨年末から紹介しそびれている本が多々あり(…💦)、そのなかの2冊でした!
     他の本はまた次のブログでご紹介します!