今月は本の紹介が多めですが、忘れてしまう前に…ご紹介します。
鳥飼玖美子・苅谷夏子・苅谷剛彦(2019)『ことばの教育を問いなおす―国語・英語の現在と未来―』ちくま新書
特に外国につながる子どもの日本語教育に関係して、というわけではありませんが、改めて「ことばの力」や「ことばの教育」について考えさせられた本です。
鳥飼玖美子氏は英語教育について、特に小学校英語教育の是非については、母語の力が十分でないうちからの小学校英語教育については反対の立場から発信されてきた方です。苅谷夏子氏は大村はま氏の国語教育実践についてまとめていらっしゃる方で、苅谷剛彦氏は教育学の世界では著名な方です。
この三者が、それぞれの立場からことばの教育について語っています。
表面的な流ちょうさではなく、話す内容やその論理性が本来は必要とされるものであり、そうしたことばの力をどう鍛えるのか、自分たちが鍛えられたかも述べられます。そうした三者の文章からは、抽象的な思考が可能となることばの力を身につけることの重要性を強く感じます。
一件、難しそうに思われるかもしれませんが、語りかけるように書かれているので、読みやすいです。
「日本語教育」の本ではありませんが、「ことばの教育」に関わる方にはオススメの本です。
清水由美(文)・ヨシタケシンスケ(絵)(2018)『日本語びいき』中公文庫
著者による『日本人の日本語知らず。』を増補改題した文庫版です。
日本語教師が、教えているときに遭遇する日本語教育文法の話や学習者の使用、日本語教師の立場から思うことなどを綴ったエッセイです。
本格的に日本語教師としてお仕事をされている方でなくとも、日本語教室で教えたことのある方は、「あるある!」と思いながらあっという間に読める本です。
実は、この本を読みながら、日本語教育の文法的な疑問を持ったので、そのうちどなたかに解説していただこう、と思っています。
(新型コロナウイルスが終息して、日本語教室が再開したら質問します!)
ことばについての本を読んでいたら、10年以上前に読んだエッセイのことを思い出しました。
多和田葉子(2003)『エクソフォニー―母語の外へ出る旅―』岩波書店
(多和田葉子(2012)『エクソフォニー―母語の外へ出る旅―』岩波現代文庫)
2012年に岩波現代文庫として刊行されていますが、岩波現代文庫ではリービ英雄さんが解説をしているようです。
(私の手元にあるのは、文庫版ではないので…)
日本語とドイツ語で創作活動を行う著者が、ことばをめぐって、日本語、ドイツ語、さらに他の言語に触れて感じることを軽やかに綴っています。
日本語ではないで生活した経験がある方、日本語学習でことばの間を漂いながら表現している人と接している方など、興味深く読めると思います。
第二部は、ドイツ語を学習している人にはとても面白く読めると思います。
ドイツ語学習者からして「そうなんだ~」や「あるある!」と思うところがたくさんあります。もちろんドイツ語学習者でなくとも、外国語学習の経験がある方にとっては興味深いと思います。
ことばは、著者にとって一つの大きなテーマだと思いますが、次の物語も興味深く読めました。
多和田葉子(2018)『地球にちりばめられて』講談社
ある日、自分の国が消滅してしまったら…。コミュニケートするための新しいことばを作り出し、自分と同じ母語を話す人を探す旅に出る主人公。
新しく作り出したことば、自分の母語、言語によってつながっていく人々との出会い。
とても素敵な作品です。
新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、不要不急な外出自粛が求められていますが、体調管理をしつつ、部屋のなかでの過ごし方の一つとして読書を楽しめたらいいですね。