NPO法人ともに生きる街ふくおかの会: 本の紹介(2020.05)

2020年5月28日木曜日

本の紹介(2020.05)

 日々が慌ただしく、4月も本の紹介ができていなかったので、なんとか5月は…と思い、本の紹介です。

木下寛子(2020)「共に生きるってどういうこと?―多文化状況の日常場面から考える『共生』―」、川島大輔・松本学・徳田治子・保坂裕子編『多様な人生のかたちに迫る発達心理学』ナカニシヤ出版

 福岡市のある学童の場を舞台とした共生の日常を描いています。ムスリムの子どもを受け入れることになってから、それまでの学童の日常がどう新しい日常となっていったのか。「おやつ」の時間をめぐって、学童を見守る大人とそこで過ごす子どもたちの日常があたたかく描かれています。
 こうした事例から、筆者は「共に生きる」ことの要件として、「重要なのは、それまでの日常において大切にしていたことを新たな他者との出会いのなかでも大事にできるように、持ちうる力と知恵を最大限発揮することだけだった。それはつまり、私たちが日々を生きるあり方そのものが、多文化状況の日々における「共に生きる」ことの基礎になるということに他ならない」(136頁)と述べています。
 新たな他者と出会ったときに、私たちが日常で大切にすること、他者が大切にすること、双方を大切にしながら、それを共有できたとき、そしてそれが日常になったとき、筆者の述べるように「共に生きる」ことを基礎を作りだせるのかなと感じました。



松村圭一郎(2020)『はみだしの人類学―ともに生きる方法―』NHK出版

 文化人類学の立場から、「違い」を乗り越えてともに生きるための技法を考えるといった内容のとても読みやすい本です。
 ともいきで取り組んできたことを考えて、共感したのは、「共鳴のつながり」と筆者が呼ぶものです。筆者はそれを「他者と交わるなかでお互いが変化するようなつながり方」(94頁)と定義しています。そして、「共鳴のつながり」は、「予想外の出来事や偶然の出会いで変化が生まれることを、みずからの糧にします。自分の生まれ育った世界とは違う世界を生きる人や違う価値観の人との出会いをみずからの『喜び』に代える姿勢」(103頁)でもあると述べています。
 本書の最後には、筆者が文化人類学を学ぶなかで手にした実感として、次のように述べています。
 「『わたし』や『わたしたち』が変化するからこそ、周囲の人や環境も、自分自身もあらたな目でとらえなおすことができる。脅威に感じられた差異が可能性の差異に変わる。それこそが、さまざまな差異に囲まれ、差異への憎悪があふれるこの世界で、他者とともに生きていく方法なのではないか」(104頁)。
 このように言語化されたことは、多文化住民との関わりのなかで、地域の日本語教室のなかで、隣人として生きる私たちの日常のなかで感じていることとつながるな、と思いました。
 日本語教育でも言語教育でも、教育の本でもありませんが、違った角度から日々の実践を捉えるためにもオススメの1冊です。